PGT-A(着床前検査)とは。国内の実施状況と海外との違い

「PGT-Aを受ければ、もう流産しなくて済むのでしょうか」。
胚培養士として働いていた頃、診察のあとにこう聞かれたことが何度もあります。

はじめまして、早瀬真理子です。
都内の生殖医療クリニックで胚培養士として12年ほど勤め、いまは不妊治療や生殖医療を専門に書くライターをしています。

PGT-Aは、ここ数年で日本のルールが大きく変わった検査です。
2025年9月には対象が広がり、2026年にも学会の細則が改定されました。
一方で、ネット上には古い情報や海外の事情を混ぜた説明も多く、迷っている方をよく見かけます。

この記事では、PGT-Aで分かることと分からないこと、日本で受けられる条件と費用、海外との違いを、学会や公的機関の資料をもとに整理しました。
検査を受けるかどうかを決めるための材料として読んでいただければうれしいです。

PGT-Aとは何を調べる検査か

調べるのは胚の染色体の「数」

PGT-Aは「着床前胚染色体異数性検査」の略称です。
体外受精でできた胚を子宮に戻す前に、染色体の数に過不足がないかを調べます。

具体的には、胚盤胞まで育った胚から、将来胎盤になる部分(栄養外胚葉)の細胞を5〜10個ほど採ります。
その細胞のDNAを増やし、NGS法などで染色体を解析する流れです。
結果が出るまで胚は凍結しておき、移植は後日の周期で行います。

流産の原因として多いのが、胚の染色体の数の異常です。
年齢とともにその割合が上がるため、移植の前に胚を選ぶ方法として使われてきました。

判定はA〜Dの4区分

日本産科婦人科学会(日産婦)の細則では、結果を次の4つに分けて説明することになっています。

判定内容
A染色体の数が正常な胚
B正常な細胞と異常な細胞が混ざった「モザイク」の胚
C染色体の数や構造に異常がある胚
D判定できなかった胚

B判定のモザイク胚は、A判定の胚より着床率や出産率が下がるとされています。
ただし、健康な赤ちゃんが生まれた報告もあり、移植するかどうかは遺伝カウンセリングを受けたうえで夫婦が決めます。

検査で分からないこと

PGT-Aには限界もあります。
培養室で生検に関わっていた立場から、ここは必ずお伝えしたい点です。

  • 調べるのは胚の一部の細胞だけで、胚全体の状態と結果がずれることがある
  • 生検によって胚に負担がかかる
  • 遺伝子1つの変化による病気は対象外(それはPGT-Mという別の検査)
  • 日本では、性染色体の結果は原則として開示されない

日産婦の細則は、同意書に「検査には技術的な検出限界があり、検査結果には不確実性があること」を入れるよう定めています。
A判定でも妊娠が保証されるわけではありません。

日本でPGT-Aを受けられる人と施設

対象は3つ。2025年9月に高年齢が加わった

日本でPGT-Aを受けられる人は、日産婦の不妊症および不育症を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)に関する細則で決められています。
2026年9月5日に改定された最新版では、対象は次のいずれかに当てはまる夫婦です。

  • 体外受精や顕微授精で胚移植をくり返しても妊娠に至らなかった不妊症の夫婦
  • 流産や死産をくり返した不育症の夫婦
  • 女性が高年齢の不妊症の夫婦(2025年9月時点では35歳以上が目安)

3つ目は2025年9月の改定で加わりました。
それまでは「流産を2回経験しないと受けられない」と悩む声が多く、私の周りでも同じ声をよく聞いていました。

日産婦は改定の理由として、高年齢の女性では有益性が高まる可能性がある一方、若い年齢層ではむしろ出生率を下げているという海外の報告を挙げています。
その境目が、現時点の論文では35歳程度だということです。

学会が認めた施設でしか受けられない

PGT-Aは、日産婦の承認を受けた施設でしか実施できません。
生殖医療専門医と、染色体解析の専門家が施設に常勤していること、臨床遺伝専門医と連携していることなどが条件です。

承認施設の数は、2024年の実施状況報告の時点でPGT-Aが258施設でした。
通院できる範囲にあるかどうかは、日産婦の施設検索で確認できます。

国内の実施状況

日産婦が公表した2024年の着床前遺伝学的検査の実施状況報告の主な数字です。

項目2024年
新たに同意を得た夫婦4,390
検査した胚19,361個
A判定の胚4,616個
移植周期3,883周期
妊娠率(移植あたり)56%
流産率(妊娠あたり)17%

検査した胚のうちA判定は約2割で、残りの多くはC判定でした。
「検査してみたら移植できる胚がなかった」という方が少なくないのは、この数字を見ると分かります。

保険は使える?費用と先進医療の現状

2022年4月に不妊治療の多くが保険適用になりましたが、PGT-Aは対象外です。
2026年6月の診療報酬改定でも、保険には入りませんでした。

日産婦は2025年9月の文書で、PGT-Aは私費診療として実施され、混合診療とならないよう注意するよう会員に求めています。
保険診療と自費診療を同じ治療の中で混ぜることは、原則として認められていません。
そのため、PGT-Aを受ける場合は採卵から移植までが自費になるのが一般的です。

例外が「先進医療」です。
厚生労働省の先進医療を実施している医療機関の一覧(令和8年8月現在)には、「着床前胚異数性検査2」が載っています。
実施しているのは徳島大学病院、セント・ルカ産婦人科、加藤レディスクリニック、IVF大阪クリニックの4施設です。

ただしこれは臨床研究の枠組みで、対象は反復不成功、反復流死産、染色体構造異常のある方に限られます。
年齢だけを理由に対象になるわけではありません。
新しい参加者をまだ受け付けているかどうかは、施設ごとに確認が必要です。

検査そのものの費用は、クリニックの公開価格で胚1個あたりおよそ8万〜11万円です。
胚の数だけ費用が増えるので、胚盤胞が多くできた方ほど負担が大きくなります。
自治体によっては助成制度があるので、お住まいの地域の制度も調べておくと安心です。

海外との違い

アメリカは広く使われているが、学会は全員には勧めていない

アメリカでは、PGT-Aの利用が急速に広がりました。
米国の生殖補助医療の登録データを分析した2025年の研究では、初めての体外受精サイクルでPGT-Aを使った割合は、2014年の11.5%から2020年には49.0%に増えています。

一方で、米国生殖医学会(ASRM)のPGT-Aに関する委員会見解(2024年)は、体外受精を受けるすべての患者へのルーティンの検査としての価値は示されていない、としています。
利用は広がっていても、学会は「全員に勧めるものではない」という立場です。

イギリスと欧州はさらに慎重

イギリスで不妊治療を監督する公的機関HFEAは、追加治療ごとに効果を色分けして公表しています。
PGT-Aは、大半の患者について出産の可能性を上げる根拠はないと評価されています。
欧州ヒト生殖学会(ESHRE)も、2023年の推奨で、日常的な臨床使用は勧めないとしています。

3か国の比べ方

項目日本アメリカイギリス
対象の決め方学会の細則で3条件に限定学会による限定の仕組みはない規制当局のもとで実施
実施施設学会の承認施設のみ各クリニックの判断免許を受けた施設
性別の情報原則として開示しない開示する施設がある医学的理由以外の性別選択は法律で禁止

性別については、ASRMの倫理委員会の見解(2022年)で、米国には性別選択を法律で禁じている州がないと書かれています。
日本では指針で性別の選択が禁じられており、ここは大きな違いです。

PGT-Aで出産できる確率は上がるのか

ここが一番誤解されやすいところです。
「移植1回あたり」と「患者1人あたり」で、結果の見え方が変わります。

移植1回あたりで見ると、PGT-Aで選んだ胚は妊娠率が高く、流産率が低いという報告が多くあります。
日本の2024年の実績でも、移植あたりの妊娠率は56%でした。

ところが、採卵した胚をすべて使い切るまでの「累積出産率」で見ると、話が変わります。
2021年に医学誌NEJMに載った中国の大規模な比較試験(20〜37歳、1,212人)では、累積出産率はPGT-Aありが77.2%、なしが81.8%で、PGT-Aによる上乗せは見られませんでした。
日産婦も、累積の出産率を上げられるかどうかは証明されていない、と説明しています。

つまりPGT-Aは、「赤ちゃんを授かれる胚を増やす検査」ではありません。
もともとある胚の中から、移植する順番を決める検査です。
流産のつらさを減らしたい方や、通院の回数を減らしたい方には意味がある一方、胚が少ない方では移植のチャンスそのものが減ることもあります。

40代で正常な胚が見つからなかったとき

40代でPGT-Aを受けると、すべての胚がC判定だったという結果も珍しくありません。
そこで初めて、卵子提供を考える方もいます。

日本では、第三者の卵子を使う治療のルールを定める「特定生殖補助医療に関する法律案」が2025年2月に参議院へ提出されました。
しかし同年6月の国会閉会で廃案になり、法整備はまだ途中です。
国内のクリニックで卵子提供を受けるのは難しく、海外の医療機関や、渡航や手配を仲介するエージェントを通す方法が選ばれています。

エージェントの中には、PGT-Aのサポートを扱うところもあります。
たとえば株式会社MONDOMEDICAL(2015年設立)は、卵子提供と代理出産のほか、着床前検査の手配や凍結胚の輸送を扱っています。
同社が案内している卵子提供プログラムの一つは、採卵・培養・PGT-Aを海外で行い、移植を日本国内で行う形です。

エージェントを比べるときは、次の点を確認しておくと判断しやすくなります。

  • PGT-Aをどの国のどの検査機関で行うのか
  • 費用の内訳と、為替で変わる部分
  • 胚の輸送や保管を誰が担うのか
  • 日本の医療機関で移植するときの手続き

依頼先を探すときは、モンドメディカルの評判やサポート体制のように、エージェントの公式情報と利用者の声の両方を確かめてから相談することをおすすめします。

まとめ

PGT-Aは、移植する前に胚の染色体の数を調べる検査です。
日本では2025年9月に、35歳以上を目安とする高年齢の不妊症の夫婦も対象になりました。
ただし、受けられるのは学会の承認施設だけで、費用は原則として自費です。

海外ではアメリカを中心に広く使われていますが、日本・アメリカ・欧州の学会はいずれも、全員に勧める検査ではないという点で一致しています。
流産を減らす効果は期待できる一方、累積の出産率を上げるとは言えない。
この2つを分けて考えると、検査を受けるかどうか判断しやすくなります。

迷っている方は、主治医に「自分の年齢と胚の数だと、PGT-Aでどう変わるか」を具体的に聞いてみてください。
培養室から患者さんを見てきた私としては、検査の結果よりも、その結果をどう受け止めるかを夫婦で先に話しておくことが大切だと思っています。

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