接着剤塗布の歩留まり改善!工業用ディスペンサー条件出しの順番

「何度調整しても、接着剤の塗布量が安定しない」
「日によって、あるいは作業者によって、塗布品質にバラつきが出る」
「新製品の立ち上げのたびに、条件出しに膨大な時間がかかっている」

もし、あなたが製造現場でこのような悩みを抱えているなら、その原因はディスペンサーの「条件出しの順番」にあるのかもしれません。

接着剤の塗布工程において、塗布量の不足、過多、はみ出しといった不良は、製品の品質を直接左右し、歩留まりを悪化させる大きな要因です。多くの現場では、これらの問題が発生するたびに、担当者が経験と勘を頼りにディスペンサーの圧力や時間を微調整しているのが実情ではないでしょうか。

しかし、その場しのぎの調整は、根本的な解決にはなりません。それどころか、闇雲にパラメータをいじることで、かえって問題を複雑化させ、時間とコストを浪費するだけの結果に終わることも少なくありません。エンズアップの記事「塗布機の立ち上げ時に現場で必ず押さえるべきポイントと失敗回避のコツ」でも指摘されているように、装置の調整・設定ミスは、塗布ムラや過剰塗布を引き起こす主要な原因の一つです。

では、どうすればこの負のループから抜け出せるのでしょうか。答えは、体系的なアプローチに基づき、正しい「順番」で条件出しを行うことです。この記事では、接着剤塗布の歩留まりを劇的に改善するための、工業用ディスペンサーの条件出しの「正しい順番」を、6つのステップに分けて具体的に解説します。

まずは敵を知る!ディスペンサーの基本と主要パラメータ

効果的な条件出しを行うためには、まず使用しているディスペンサーの方式と、吐出量を決定づける主要なパラメータを理解しておく必要があります。工業用ディスペンサーは、その原理と構造によっていくつかの種類に分類されますが、ここでは代表的な「エア圧式」と「容積移送式」の2つを取り上げます。

方式概要主要パラメータメリットデメリット
エア圧式シリンジ内の液剤を空気圧で押し出して吐出する方式。・吐出圧力
・吐出時間
・ニードル径
・構造がシンプル
・比較的安価
・液剤の粘度変化や残量の影響を受けやすい(水頭差)
・高精度な吐出は苦手
容積移送式プランジャーの往復運動やスクリューの回転など、機械的な力で一定体積の液剤を送り出して吐出する方式。・プランジャーの移動量
・スクリューの回転数
・吐出速度
・液剤の粘度変化や残量の影響を受けにくい
・高精度で安定した吐出が可能
・構造が複雑
・比較的高価

エア圧式ディスペンサーは、そのシンプルさから多くの現場で採用されています。しかし、ナカリキッドコントロール株式会社の技術資料にもあるように、吐出量の制御は主に「圧力」と「時間」に依存するため、液剤の粘度変化やシリンジ内の残量(水頭差)によって吐出量が変動しやすいという弱点があります。

一方、容積移送式ディスペンサーは、モーターでプランジャーやスクリューを機械的に制御し、物理的に一定量を押し出すため、液剤の状態変化に強く、極めて高い精度と安定性を実現します。モーノディスペンサーに代表される一軸偏心ねじポンプもこの一種です。

あなたの現場で使用しているディスペンサーがどちらのタイプで、どのパラメータを調整できるのかを正確に把握することが、条件出しの第一歩となります。

歩留まり改善へのロードマップ!条件出しの正しい6ステップ

それでは、いよいよ本題である「条件出しの正しい順番」について解説します。以下の6つのステップを順番に実行することで、誰でも体系的に、そして効率的に最適な塗布条件を見つけ出すことができます。

  1. 【ステップ1】準備と計画:ゴールを明確にする
  2. 【ステップ2】基本パラメータの固定:土台を固める
  3. 【ステップ3】吐出量の決定:心臓部を決める
  4. 【ステップ4】塗布形状の調整:見た目を整える
  5. 【ステップ5】連続吐出での安定性評価:持久力を試す
  6. 【ステップ6】量産移行と管理:ルールを作る

重要なのは、前のステップが完了するまで、次のステップには進まないことです。例えば、ステップ2の基本パラメータがふらついている状態でステップ3の吐出量を調整しても、安定した結果は得られません。一つひとつのステップを確実にクリアしていくことが、成功への唯一の道です。

【実践編】各ステップの具体的な手順とチェックポイント

ここからは、6つのステップそれぞれについて、具体的な作業内容、チェックポイント、そして「なぜその順番なのか」という理由を詳しく解説していきます。

ステップ1:準備と計画(ゴールを明確にする)

条件出しを始める前に、まずは目的と目標を明確に定義します。ここでの準備が、後工程の成否を大きく左右します。

  • 接着剤の特性を把握する: メーカーから提供される技術データシート(TDS)を熟読し、粘度(特に温度との関係)、比重、チクソ性、推奨硬化条件、可使時間(ポットライフ)などを正確に把握します。特に粘度は温度によって大きく変化するため、工場内の温度環境も考慮に入れる必要があります。
  • 目標とする品質基準を定義する: 「きれいな塗布」といった曖昧な目標ではなく、「塗布幅:1.0mm ±0.1mm」「塗布高さ:0.5mm ±0.05mm」「塗布開始・終了点の形状」など、具体的な数値を設定します。可能であれば、良品・不良品のサンプルを用意し、関係者間で認識を共有します。
  • 評価方法を確立する: 塗布した結果をどのように測定・評価するかを事前に決めておきます。3Dレーザー変位計、画像測定器、あるいはマイクロスコープなど、設定した品質基準を客観的に評価できるツールを準備します。

【なぜ最初に行うのか?】
ゴールが曖昧なまま出発しても、どこに向かえば良いのか分かりません。最初に「どのような状態を目指すのか」を明確にすることで、その後の各ステップでの判断基準がブレなくなり、手戻りを防ぐことができます。

ステップ2:基本パラメータの固定(土台を固める)

次に、吐出量や形状に影響を与える基本的な要素を固定し、条件出しの「土台」を固めます。このステップでは、一度決めたパラメータは、後工程で問題が発生しない限り変更しません。

  • ノズル(ニードル)の選定と固定: 塗布したい幅や形状、接着剤の粘度に応じて、最適なノズルの種類(テーパー、ストレートなど)と内径(ゲージ)を選定します。一般的に、ノズル内径は塗布幅の1/2〜1/3程度が目安とされます。
  • 液剤の温度管理: 接着剤の粘度は温度に大きく左右されるため、可能な限り一定の温度に保つことが重要です。液剤温調器(ジャケット)やカートリッジウォーマーなどを利用し、季節や時間帯による温度変化の影響を最小限に抑えます。
  • 供給圧の安定化: エア圧式の場合、ディスペンサーにかける圧力だけでなく、工場エアの元圧が安定しているかを確認します。元圧の変動は、そのまま吐出圧の変動につながります。
  • ワークの固定: 塗布対象物(ワーク)が治具に確実に固定され、毎回同じ位置にセットできることを確認します。

【なぜ先に行うのか?】
これらの基本パラメータは、後続のすべてのステップに影響を与える「前提条件」です。もし、条件出しの途中でノズルを変更したり、液剤の温度が変わったりすれば、それまでに行った調整がすべて無駄になってしまいます。最初に土台をしっかりと固めることで、その後の調整作業を効率的に進めることができます。

ステップ3:吐出量の決定(心臓部を決める)

土台が固まったら、いよいよ塗布量の調整に入ります。ここが条件出しの心臓部です。目標とする塗布重量(または体積)になるように、主要なパラメータを調整します。

  • エア圧式の場合: まず吐出圧力を、液剤がスムーズに吐出される範囲で低めに設定します。次に、吐出時間を調整して目標の吐出量に近づけます。圧力を高くしすぎると、液剤の垂れや吐出のばらつきが大きくなるため、基本的には「低めの圧力」と「時間の調整」でコントロールするのがセオリーです。
  • 容積移送式の場合: プランジャーの移動量やスクリューの回転数を調整します。この方式は、設定値と実際の吐出量の相関が非常に高いため、比較的容易に目標値に合わせ込むことができます。特に、シール材やポッティング材など超高粘度の接着剤を扱う場合、高粘度材料の塗布に特化したプランジャポンプ式ディスペンサーが有効です。このタイプの装置は、最大105万mPa・sという超高粘度の材料でも安定した吐出が可能で、条件出しの再現性が格段に向上します。

この段階では、まだ塗布の「形状」は気にしません。まずは、一回の吐出で出てくる液剤の「量」を正確に合わせ込むことに集中します。数回テスト吐出を行い、その重量を精密電子天秤で測定し、平均値とばらつき(標準偏差)を確認します。

【なぜ形状より先に行うのか?】
塗布形状は、吐出量と後述する塗布速度やノズル高さの組み合わせで決まります。まずは基本となる「吐出量」という絶対値を確定させなければ、他のパラメータをいくら調整しても望む形状は得られません。料理で言えば、レシピの分量を決めずに味付けを始めるようなものです。まず「量」を決め、その後に「形」を整えるのが鉄則です。

ステップ4:塗布形状の調整(見た目を整える)

目標とする吐出量が決まったら、次にその量をどのような「形」でワークに塗布するかを調整します。ここでの主役は、ディスペンサーの動きを制御するパラメータです。

  • 塗布速度: ロボットやステージが動く速度を調整します。同じ吐出量でも、速度が速ければ線は細くなり、遅ければ太くなります。目標の塗布幅になるように速度を調整します。
  • ノズルとワークの距離(ギャップ): ノズルの先端とワーク表面との距離を調整します。このギャップが狭すぎるとノズルがワークに接触してしまい、広すぎると吐出した液剤が蛇行したり、糸引きの原因になったりします。液剤がワークにスムーズに着地する最適な高さを見つけます。
  • 待機時間(ドウェルタイム): 塗布開始前や終了後の待機時間を調整します。特に、点の塗布(ポッティング)や、線の始点・終点の形状を整える際に重要なパラメータとなります。

これらのパラメータは互いに影響し合うため、一つを調整したら他のパラメータも微調整が必要になる場合があります。例えば、塗布速度を上げたことで線が細くなりすぎた場合、ステップ3に戻って吐出量を少し増やす、といった行き来が発生することもあります。しかし、その場合でも、あくまで微調整にとどめ、基本の順番を守ることが重要です。

【なぜ吐出量の後に行うのか?】
前述の通り、一定の「量」が確保されて初めて、それを引き延ばしたり、丸めたりして「形」を作ることができます。吐出量が安定していないのに形状を調整しようとしても、毎回違う結果になるだけで、永遠に条件出しは終わりません。

ステップ5:連続吐出での安定性評価(持久力を試す)

最適な塗布形状が得られたら、その条件で連続して吐出を行い、安定性を評価します。ここでの評価を怠ると、量産開始後に思わぬトラブルに見舞われることになります。

  • 短時間での連続吐出: 実際の生産タクトに近い間隔で、数十回から数百回の連続吐出を行います。吐出量のばらつきが許容範囲内に収まっているか、塗布形状に変化はないかを確認します。
  • 長時間での安定性確認: 特にエア圧式ディスペンサーの場合、シリンジ内の液剤が減少することによる水頭差の影響を確認する必要があります。三栄テクノロジー株式会社の解説にもあるように、液剤が満タンの時と、少なく なった時で吐出圧が変化し、吐出量が変わってしまう現象です [5]。始業時、昼休み後、終業間際など、時間をあけて吐出状態を比較し、許容できない変化がある場合は、圧力補正機能の活用や、そもそも水頭差の影響を受けにくい容積移送式への変更を検討します。
  • 温度変化の影響: 装置の駆動や周辺機器からの熱により、時間経過とともに液剤の温度が上昇することがあります。温度上昇による粘度低下が吐出量に影響を与えていないかを確認します。

【なぜこのタイミングで行うのか?】
一点ものの作品を作るのであれば、このステップは不要かもしれません。しかし、工業製品の生産においては、何千回、何万回と繰り返しても同じ品質を維持できる「安定性」と「再現性」が最も重要です。単発のテストでうまくいった条件が、連続生産でも通用するかどうかを検証する、いわば品質の「ストレステスト」がこのステップです。

ステップ6:量産移行と管理(ルールを作る)

すべてのテストをクリアし、最終的な塗布条件が確定したら、いよいよ量産への移行です。しかし、ここで終わりではありません。その最適な状態を維持するための「仕組み」と「ルール」を作ることが、最後の重要な仕事です。

  • 作業標準書の作成: 確定したすべてのパラメータ(圧力、時間、速度、ノズル型番、温度設定など)を、誰が見ても分かるように文書化します。なぜその設定値なのかという理由や、調整時の注意点なども記載しておくと、トラブル発生時に役立ちます。
  • 管理項目の設定: 日常的にどの項目をチェックすべきかを決めます。例えば、「始業前にテスト吐出を行い、重量が X.Xg ± Y.Yg の範囲内にあることを確認する」といった具体的な管理ルールを設けます。
  • メンテナンス計画の策定: ノズルの洗浄や交換の頻度、シリンジやチューブの交換時期など、定期的なメンテナンス計画を立て、担当者を決めます。エンズアップの記事「接着剤塗布機(ディスペンサー)の選び方と現場導入のコツ」でも、ノズル詰まりや清掃性の課題は導入時の落とし穴として挙げられています。トラブルが発生してから対応する「事後保全」ではなく、計画的にメンテナンスを行う「予防保全」が、安定稼働の鍵となります。

【なぜ最後に行うのか?】
最高のレシピが完成しても、それを正確に記録し、誰でも再現できるようにしておかなければ、その味は一代限りで失われてしまいます。このステップは、匠の技を「技術」に昇華させ、組織の資産として定着させるための仕組み作りです。せっかく苦労して見つけ出した最適条件を、担当者の異動や退職によって失うことがないように、必ず文書化とルール化を行いましょう。

現場でよくある失敗例と、それを防ぐ「順番」の力

体系的なアプローチを知らずに条件出しを行うと、以下のような典型的な失敗に陥りがちです。これらの問題も、実は「条件出しの順番」を間違えていることに起因しています。

よくある失敗原因(間違った順番)本来の正しい順番
塗布ムラ・過剰塗布吐出量が安定しないまま、塗布速度やノズル高さを調整しようとしている。(ステップ3を飛ばしてステップ4へ)ステップ3で吐出量を確定させてから、ステップ4で形状を調整する。
ノズル詰まりが頻発液剤の特性(粘度、硬化時間)を理解せず、不適切なノズルや温度で条件出しを始めている。(ステップ1を軽視)ステップ1で液剤特性を把握し、ステップ2で最適なノズルと温度を固定する。
塗布位置がズレるワークの固定が不確実なまま、塗布のパスを調整している。(ステップ2を無視)ステップ2でワークの固定を確実にしてから、ステップ4で塗布形状を調整する。
時間が経つと吐出量が変わる単発のテストだけで条件を決め、連続吐出での安定性を評価していない。(ステップ5の欠如)ステップ5で連続吐出テストを行い、水頭差や温度変化の影響を確認・対策する。

これらの失敗は、いずれも土台がぐらついているのに、その上で家を建てようとするようなものです。正しい順番でステップを踏むことこそが、これらの無駄な手戻りやトラブルを回避する最も確実な方法なのです。

まとめ:ディスペンサー条件出しは「順番」がすべて

接着剤塗布の歩留まり改善は、決して魔法のような裏技で達成されるものではありません。それは、科学的根拠に基づいた体系的なアプローチ、すなわち「正しい順番」で条件出しを実践した先にある、必然的な結果です。

今回ご紹介した6つのステップを、あなたの現場で一つひとつ着実に実行してみてください。

  1. 準備と計画でゴールを定め、
  2. 基本パラメータの固定で土台を固め、
  3. 吐出量の決定で心臓部を決め、
  4. 塗布形状の調整で見た目を整え、
  5. 連続吐出での安定性評価で持久力を試し、
  6. 量産移行と管理でルールを作る。

このロードマップに沿って進めることで、あなたは経験や勘といった曖昧なものに頼るのではなく、誰にでも説明でき、引き継ぐことができる「技術」として、最適な塗布条件を確立することができるでしょう。

それは、目先の不良を一つ減らす以上の価値を持ちます。安定した品質は顧客の信頼を勝ち取り、手戻りや材料ロスの削減は会社の利益に直結し、そして何より、日々の調整作業に追われるあなたの貴重な時間を、より創造的な改善活動へと振り向けることを可能にするのです。

さあ、明日から、あなたの現場のディスペンサーの前に立ち、ステップ1から始めてみませんか。その一歩が、あなたの工場の歩留まりを改善する、大きな飛躍につながるはずです。

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